「パンダの死体はよみがえる」(遠藤秀紀)

遺伝子研究がいくらすすんでも「かたち」の問題は実物をみないとわからないし、相手が動物である以上、生きているあいだは近づくことすらできないこともある。死体(遺体)だからこそわかることがある。そんな謎がきりひらかれる瞬間が著者独特の口調であつく語られていてたのしい。あと、骨格標本をつくるのに埋めたり、煮炊きする(!)というのはびっくりした。

この本でも最終章で著者の「遺体科学」や日本の基礎研究の問題点や目指すべき方向が語られていて、自然科学をこころざした身としてはほんとうにそのとおりだとおもうんだけど、その主張を聴くべきひとを説得できる言葉にはなっていなくて、とてももどかしい。

「遺体を収蔵していくことに税を使うなら、遺体を使う活動に金銭的代価が求められて当然だ」という立場が罷り通るようになってきた。

こういう視野のせまい「受益者負担」への根本的な違和感はどうすれば共有できるんだろう。

パンダの死体はよみがえる (ちくま新書)

パンダの死体はよみがえる (ちくま新書)